ここでは、デューデリジェンスが買収監査と呼ばれる理由について解説しています。「監査」という言葉のイメージから生じているデューデリジェンスに対する誤解についても説明しています。
デューデリジェンスはしばしば、「買収監査」と同義語のように扱われています。
そもそも監査とは、経営状況が把握できる財務諸表や各部門の業務実績の情報を収集し、会社が法律や会社規定に則って、健全な経営を行っているかを監督したり検査したりすることをいいます。
監査は、株主や投資家、債権者に対し、経営実態を明確に示すために行われており、一定の条件を満たす会社が監査を受けることは、会社法や金融商品取引法によって義務付けられています。
そもそも、デューデリジェンスの目的は、M&Aの意思決定に有用な情報を提供することです。その目的を達成するためには、「情報の確認」と「情報の収集」が必要です。しかし、「買収監査」というその言葉のイメージによって、デューデリジェンスを、公認会計士などの監査法人が行う「財務諸表監査(会計監査)」と同じようなものと誤解してしまい、「情報の確認」だけを行えばいいと思われているケースが多々あるようです。
たとえば、財務デューデリジェンスにおける情報の確認は、過去情報や財務情報のみであり、情報の確認が目的で限定的です。これに、情報の収集として、過去情報、財務情報に限らない将来情報、財務以外の情報が加わり、両者を合わせて財務デューデリジェンスとなります。
そのため、デューデリジェンスは買収監査よりも広い概念であり、財務諸表監査の延長線上で手続きを行ったとしても、本当の意味での、M&Aの意思決定に有用な情報の提供はできません。
日本の中小企業においては、顧問税理士制度が広く浸透しています。顧問税理士は、月に1回程度、経営の状況をヒアリングし、帳簿や関連資料のチェックを行い、記帳に誤りがないかを確認する「巡回監査」を行います。これは、おもに適正な納税のため、税務的に問題がないかどうかという観点から行われているため、決算書が財務の実態を表しているかどうかは二の次です。
これに対し、財務デューデリジェンスはM&Aの意思決定に有用な情報を提供することを目的としているため、決算書が財務の実態を表しているかどうかが重要であり、基本的には会計的な思想が必要になります。
また、定期的に訪問している巡回監査では、ひとつひとつの仕訳を確認することができますが、財務デューデリジェンスの場合、調査対象が初対面の会社であり、その決算書が財務の実態を表しているかどうかを短期間で調査しなければならないため、その重要性を考慮した手続きを行う必要があります。
ゆえに、顧問税理士が行っている巡回監査の延長線上で財務デューデリジェンスを行ったとしても、目的やアプローチが異なり、有効に行うことはできません。
M&Aにおいて必要不可欠とされるデューデリジェンス。調査の内容は各社によってさまざまですが、自社に適切な選択をすることが成功への近道です。
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